脂質異常症と食事・栄養素の関係
生活習慣と脂質異常症
脂質異常症とは、血液中に溶けている脂質のうち、悪玉コレステロール(以下、LDLコレステロール)や中性脂肪(以下、トリグリセライド)の数値が一定の基準値より高い状態、または善玉コレステロール(以下、HDLコレステロール)の数値が一定の基準値より低い状態のことをいいます。
いずれかの状態になることで動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞や脳梗塞の危険因子となります。
高LDLコレステロール血症になると、LDLコレステロールが酸化、変性し、血管壁に溜まり、動脈硬化に進展しやすくなります。一方で、HDLコレステロールは血管壁の過剰なコレステロールを回収し、動脈硬化を抑制する働きをします。
ほとんどの脂質異常症は、遺伝的体質に加えて、食習慣、運動不足、肥満などが原因と言われています。脂質異常症には自覚症状がほとんどありません。気づくのが遅れ、そのまま放置すると、動脈硬化が進み、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞を発症し、生命を脅かします。脂質異常症の治療および、動脈硬化性疾患の予防のためには、食事、運動などの生活習慣の改善が大切です。
病態の詳細や診断基準についてはこちらをご覧ください。
脂質異常症の生活改善
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」の中には、動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善項目がまとめられています(下部参照)。このうち、食生活については、①総エネルギー摂取量と身体活動量を見直し、適正な体重を維持すること、②減塩に留意した伝統的日本食パターンの食事を心がけること、③アルコールの過剰摂取を控えることなどが挙げられます。
- 動脈硬化性疾患予防のための生活習慣の改善
- ・禁煙し、受動喫煙を回避する
・過食と身体活動不足に注意し、適正な体重を維持する
・魚、緑黄色野菜を含めた野菜、改装、大豆製品、未精製穀類の摂取量を増やす
・糖質含有量の少ない果物を適度に摂取する
・アルコールの過剰摂取を控える
・中等度以上の有酸素運動を、毎日合計30分以上を目標に実施する
脂質異常症の食事のポイントは、摂取するエネルギーや栄養素の量を適正にすることは共通していますが、脂質異常症のタイプによって、食事のアプローチは異なります。そのため、自分のタイプを理解して進めていくことが大切です。
脂質異常症のタイプは、悪玉コレステロールの数値が高い状態の「高LDLコレステロール血症」、中性脂肪の数値高い「高トリグリセライド血症」、善玉コレステロールの数値が低い状態の「低HDLコレステロール血症」の3つのタイプに分けられます。
次の項では、この脂質異常症の3つのタイプと栄養素の関係について詳しく説明します。
脂質異常症と栄養素の関係
下の図は、脂質異常症に関係する栄養素などをまとめた図です。“+”は脂質異常症を引き起こすもの、反対に“-”は脂質異常症を抑える作用があるものです。
こちらの図をもとに、脂質異常症と栄養素の関係を前述した脂質異常の3タイプに分けて詳しく説明します。
1. タイプ1:高LDLコレステロール血症
高LDLコレステロール血症に関連する栄養素の中で、摂取エネルギー量や飽和脂肪酸、食事性コレステロールの過剰摂取、多価不飽和脂肪酸の摂取不足、水溶性食物繊維の摂取不足について詳しく説明します。
●エネルギー
適正なエネルギーを摂取し、脂質エネルギー比率を守ることで脂質の検査値やLDLコレステロールの低下に有効であることがわかっています。
- 適正な体重管理のためのエネルギー量の算出方法
- BMI(体格指数)を指標とし、目標体重を設定します。
目標体重に身体活動量を乗じて算出します。
・BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
・目標体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22〜24
・1日に必要なエネルギー量(kcal)=目標体重(kg)×身体活動量(25〜30kal)
●脂質 飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、肉や乳製品をはじめとした動物性食品などに多く含まれます。過剰に摂取すると、LDLコレステロールや中性脂肪を増やす原因のひとつになります。
しかし、飽和脂肪酸の中には、牛肉に含まれるステアリン酸のように、HDLコレステロールの働きを促し、LDLコレステロールを減らす作用があるものもあります。
全国で実施された「NIPPON DATE」という調査において、飽和脂肪酸摂取量が多いと、コレステロール値が高くなることが報告されています。
さらに、1981年から1997年に報告された食事介入試験をまとめた研究によると、飽和脂肪酸の摂取量を減らした食事では、LDLコレステロール値が下がるということがわかっています。適正な脂質の量に加えて、飽和脂肪酸の量にも気をつけることが大切です。
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」によれば、脂質エネルギー比率は20〜30%、飽和脂肪酸エネルギー比率は4.5%以上 7%未満に抑えることが望ましいです。
ただし、飽和脂肪酸の極端な制限は、脳内出血の発症と関連があるため、指標の量を目安に摂取することをお勧めします。
●脂質 食事性コレステロール
コレステロールは私たちの全身の細胞で作られています。血液中のコレステロール量は、口から摂取し吸収された食事性コレステロールの他に、この全身の細胞で作られたコレステロールが影響するため、個人差があります。
その理由から、食事性コレステロールの量と、総コレステロール値やLDLコレステロール値に直接的な関連があるかは明確ではありません。しかし、ガイドラインでは、コレステロール摂取量200mgに加え、飽和脂肪酸を7%に制限することで、LDLコレステロール値を減少させることが期待されています。
●脂質多価不飽和脂肪酸
多価不飽和脂肪酸は、LDLコレステロール値を減少させる働きがあります。多価不飽和脂肪酸は、n-3系脂肪酸とn-6系脂肪酸に分けられます。n-3系脂肪酸の摂取が多いと、循環器疾患のリスクが低下することもわかっています。n-3系脂肪酸は、植物油に含まれるα-リノレン酸や、魚油に含まれるEPA・DHAがあります。
●水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は、腸管において、コレステロールや胆汁酸を吸着し、排泄する働きがあります。そのため、LDLコレステロール値の減少に役立つと言われています。
水溶性食物繊維は、海藻類や豆類、果物、大麦やきのこ類に多く含まれています。
2. タイプ2:高トリグリセリド血症と栄養素の関係
●炭水化物と脂質
炭水化物の割合を増やした食事を摂取すると、トリグリセライド値が上昇します。適正な炭水化物量を摂取することが大切です。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では、炭水化物エネルギー比率は50〜60%とし、食物繊維の摂取を増やすことが推奨されています。
●n-3系脂肪酸
魚油の摂取増加により、トリグリセライド値が低下する報告があります。積極的に摂取することを推奨しています。
3. タイプ3:低HDLコレステロール血症と栄養素の関係
低HDLコレステロール血症を認める場合は、高トリグリセライド血症を伴うことがあります。その場合は、前述した、高トリグリセライド血症時の食事が有効です。
さらに、トランス脂肪酸の摂取を控えることが大切です。トランス脂肪酸とは、工業的に水素添加して加工されたマーガリンやファットスプレッド、ショートニングなどに含まれます。天然では、牛肉、羊肉、牛乳などに微量含まれています。
日本人の平均トランス脂肪酸摂取量はWHOが定める基準を下回っていますが、トランス脂肪酸を含む食品を日常的に多量に摂取している場合は注意が必要です。
具体的には、総エネルギー摂取量の1%未満にするよう定められています。
アルコールの摂取はHDLコレステロール値を上昇させます。適量のアルコールは冠動脈疾患の予防に効果的だといわれていますが、アルコールの過剰摂取は高トリグリセライド血症、急性膵炎のリスク因子となってしまうので注意が必要です。アルコールは1日25g以下が推奨されています。