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脂質異常症 学び | 医師監修

脂質異常症と食生活改善のポイント

目次
なぜ脂質異常症を治療すべきなのか?
脂質異常症の診断
食生活のポイント
最後に

脂質異常症(高脂血症)とは何か?なぜ治療が必要なのか?
このことを正しく理解されているでしょうか。この記事では、脂質異常症(高脂血症)が引き起こす様々なリスクを解説し、薬物治療に並んで最も基本的な治療となる“食生活の改善”のポイントを整理していきます。

なぜ脂質異常症を治療すべきなのか?

脂質異常症は、血液に含まれる脂質の量が多すぎたり少なすぎたりする状態をいいます。中でも罹患者が多いのが、血液中の脂肪分が増えすぎて血液がドロドロになっている高脂血症患者です。
この脂質異常症は、日常生活においては症状を自覚することはほとんどありません。
それでは、なぜ脂質異常症を治療する必要があるのでしょうか?

それは、動脈硬化の進行を遅らせ、血管イベントの発生や再発を防ぐためです。脂質異常の状態、つまりLDL-C(悪玉コレステロール) および TG(中性脂肪) が高い状態、または HDL-C (善玉コレステロール) が低い状態が続くと、少しずつ血の巡りが悪くなります。その状態が続くと、やがて動脈硬化をおこし、心筋梗塞や脳卒中とそれに関連する死亡、いわゆる「脳血管疾患リスク」が高くなることがわかっています。
脂質異常症の人にとっては、血液内の脂質(コレステロールや中性脂肪など)を適正な値に保つことは、心臓や脳の発作で命を落としたり、自立生活を失わないための、一番効果的な予防手段なのです。

このように、恐ろしい病気の引き金となる動脈硬化ですが、脂質異常症以外にも危険因子として、高血圧、糖尿病、喫煙があります。動脈硬化予防のためには、これらの4つの全ての危険因子の総合的な管理が重要となります。

脂質異常症の診断

動脈硬化性疾患予防のためのガイドラインでは脂質異常症の診断基準を表 1のように設定しています。
2017年版の改定で、新たに高・境界域高 non-HDL-C の診断基準が追加されました。Non-HDL-C は(Non-HDL-C=TC-HDL-C)で表され、TG400mg/dL 以上の中性脂肪が高い人や食後採血の場合でも用いることが出来る指標です。

< 表 1 >

治療の必要性や治療目標は、危険因子の数と程度で判断します。
人の血管は加齢とともに老化するため、程度の差こそあれ誰でも動脈硬化は進んでいます。動脈硬化そのものを治すことは難しいことですが、危険因子を減らせばその進行を遅らせることができます。危険因子の1つにあたる脂質異常症は、治療によって良くすることが可能です。
どの程度の治療が必要か(治療目標の設定)は、医師が患者さまごとに危険因子の数や程度を判断して決めますが、その判断基準として、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」において一次予防のリスク評価に、吹田スコアというものが、採用されています。

吹田スコアと動脈硬化予防
吹田スコアとは、大阪府吹田市民を対象としたコホートスタディ「吹田研究」の結果を基に、国立循環器病研究センターにより作成された冠動脈疾患の発症リスクスコアです。
コホートスタディとは、対象者を一定の要因に従ってグループ分けし、一定期間その健康状態を追跡調査することで、その要因と研究対象となる疾患の関係性を明らかにする研究のことをいいます。
この吹田スコアでは、年齢、性別、喫煙、血圧、耐糖能異常の有無などを点数化し、今後10年間の冠動脈疾患発症確率を割り出します。その確率が2%未満の場合を低リスク、2 ~9 %未満を中リスク、9%以上を高リスクと層別化しています。

現在、下記のサイトにおいて、このリスク判定のためのアプリケーションも公開されています。
http://www.j-athero.org/publications/gl2017_app.html (一般社団法人日本動脈硬化学会)

動脈硬化性疾患の予防は、動脈硬化発症進展の機序解明、臨床検査、薬物およびインターベンション治療により、めざましい進歩を遂げてきました。
このような医療からのアプローチに加えて、やはり毎日の食生活の是正が予防と治療の基本となります。
ここからは、動脈硬化の予防のために、日常生活で取り組むことが望ましい食生活のポイントについてご説明していきましょう。

食生活のポイント

1. 総エネルギー摂取量

現在のところ、1日に摂取するエネルギー量を減らすことと、動脈硬化性疾患の発症抑制の相関を示したエビデンスは存在しません。ただし、RCT*のメタ解析などから、体重減少を含めた生活習慣の改善は、血清脂質を含む動脈硬化性疾患の危険因子に対して有効であることがわかっています。
このことからも、総エネルギー摂取量を減らすことで、動脈硬化性疾患の発症を予防できると考えられます。ただし高齢者などでサルコペニアや低栄養状態の危険性が疑われる場合には、総エネルギー摂取量をむやみに減らすのは危険です。適正な栄養の摂取とそのバランスを考慮すべきでしょう。

*RTC…Randomized Controlled Trial/ランダム化比較試験。
評価のバイアスを避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法。

2. 脂質エネルギー比率

脂質エネルギー比率の違い、あるいは PFC(Protein=タンパク質・Fat=脂質・Carbohydrate=炭水化物)比の違いにより、動脈硬化の発症が予防されるという直接的な医学的エビデンスは、現時点ではありません。しかし、RCT(ランダム化比較試験)のメタ解析から、適正なエネルギー摂取量のもとで脂質エネルギー比率を制限することは、血中 LDLコレステロール(LDL-C)の低下に有効であることがわかっています。
高トリグリセライド(TG)血症や低 HDL コレステロール(HDL-C)血症では、肥満や糖尿病、高血圧などの合併症を考慮したうえで、炭水化物エネルギー比率をやや低めに設定することが推奨されます。
わが国で推奨されている脂質エネルギー比率20~25%はこの低脂質食に相当します。しかしこれは、少し専門的な話になりますが、高カイロミクロン血症の治療における脂肪制限食(15%以下)とは異なることに注意してください。

3. トランス脂肪酸

トランス脂肪酸には、マーガリンなどに代表される工業的に生産されたものと、牛や羊などの肉や乳に含まれる天然由来のものがあります。
工業的に生成されたトランス脂肪酸は、他の脂肪酸と比較すると、 LDL-C(悪玉コレステロール) を上昇させ、動脈硬化を促進するリポ蛋白であるLp(a)を上昇させ、HDL-C (善玉コレステロール)を低下させる作用があることがわかっています。トランス脂肪酸を要因としたコホートスタディおよびそのメタ解析では、トランス脂肪酸と冠動脈疾患の増加には相関があるという結果がでています。

一方で、天然由来のトランス脂肪酸をどのように判断すべきかについては、まだコンセンサスは得られていません。
現時点では日本人のトランス脂肪酸摂取量は、WHOの目標を下回っています。しかし脂質の多い菓子類や食品の食べ過ぎなど偏った食事をしている場合は、平均値を上回る摂取量となる可能性があります。トランス脂肪酸のリスクをきちんと理解し、摂取をできるだけ控えることが重要です。

4. コレステロール

コレステロール摂取量が血清脂質に及ぼす影響には個人差があります。従って、コレステロール摂取の制限値を一律に設定することはあまり意味がありません。
しかしながら、高LDL-C血症患者に対しては、コレステロール摂取量を平均より少ない200mg/日未満、飽和脂肪酸を総エネルギー摂取量の7%未満にすることで、LDL-C 低下の効果を期待できます。

このような血清脂質の改善により、動脈硬化性疾患発症を予防できる可能性があります。最近の米国や英国のガイドラインも、コレステロール摂取量を200 mg/日未満、もしくは 300 mg/ 日未満を提示し、併せて飽和脂肪酸も総エネルギー摂取量の7%未満を提示しています。
現在は血清脂質が標準値の人でも、毎日のコレステロール摂取量が増加すると、 LDL-C が上昇する可能性があるため、過剰摂取は控えるほうが良いといえるでしょう。

5. 野菜

野菜の摂取量が多いと、全死亡、脳血管疾患死および脳血管疾患、冠動脈疾患の発症リスクが低いことが、コホートスタディのメタ解析で示されており、積極的に摂取したほうが良いでしょう。

6. 果物

果物を多く摂取するほど、全死亡、心血管疾患死、冠動脈疾患リスク、脳卒中リスク、2 型糖尿病リスクが低くなります。その中でも特に柑橘類とリンゴ、ナシの摂取量との関連が強いとの報告がありますが。
しかし、オレンジジュースを高コレステロール血症患者に付加したRCT(ランダム化比較試験)では,多量飲用期間後に血中中性脂肪濃度が 30% 増加するという結果がでました。加工された果物飲料や食品は注意が必要です。果物は加工されたものではなく、自然な形での摂取したほうが良いといえます。

7. 大豆・大豆製品

日本のコホートスタディでは、大豆を週に5回以上摂取した群は、週に0~2回摂取した群とくらべて、女性で脳梗塞発症リスクが36%、心筋梗塞リスクが45%低いという結果が報告されています。分離大豆タンパクの摂取に関するメタ解析では、高コレステロール血症者で分離大豆タンパクの摂取により LDL-C の低下が認められています。豆腐や納豆、味噌など、手軽に取れる大豆製品は身の回りに数多く存在しています。積極的な摂取を心がけましょう。

8. 和食パターンの食事

日常的な食事は、さまざまな食品を組み合わせて調理されています。疾患の発症や危険因子の発現に及ぼす影響について考えるとき、個別の栄養素の観点からだけではなく、摂取する食品の組み合わせ(食事パターン)で評価することが大切です。肉の脂身や動物脂(牛脂、ラード、バター)を控え、大豆、魚、野菜、海藻、きのこ、果物、未精製穀類を取り合わせて食べる和食パターンの食事は,動脈硬化性疾患予防に推奨されます。ただし、和食はともすると塩分過多になってしまうことがあります。塩分の取りすぎには注意しましょう。

最後に

脂質異常症は、一時的な治療で完治する病気ではありません。食事療法や運動療法、薬物療法継続し、血清脂質を低く維持する毎日の生活習慣が大切です。
動脈硬化による血管イベントの発生・再発予防は、血清脂質の値をどれだけ適正に、どれだけ長くコントロールできるかにかかっています。逆にいうと、適切な治療を続ければ、いつまでも快適に自立した生活ができるということです。
脂質異常症といわれたら、「早く見つかってよかった」と前向きにとらえ、気長に治療を続けましょう。健康診断の結果で異常値が見つかったときは、早期に病院を受診することが大切です。 生活習慣を改善することはもちろん、進行状況によっては医師の診断のもとで治療を始めることも必要でしょう。

この記事の監修者

つなぐクリニックTOKYO 医師
渡邊 康夫 (わたなべ やすお)
【略 歴】
日本大学医学部大学院修了。
日本大学医学部付属練馬光が丘病院 内科,日本大学医学部附属板橋病院 救命科CCU,川口市立医療センター 循環器科,東京臨海病院 循環器科,敬愛病院 敬愛病院附属クリニックでの勤務を経て、現在に至る。

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